
その湖は、実に穏やかだった。
カップルや家族連れのボートが、湖上をゆっくりと進んでいく。だが……。
「水の中に何かいるよ?」
最初に異変に気付いたのは、水面を覗き込もうとして父親に注意された男の子だった。
直後、ボートが下から押し上げられる。
人々がボートから投げ出されていく中、姿を見せたのは、巨大な人型の構造物。その姿は、どこか建築重機を思わせる。
各部から流れ落ちる水が、即席の滝を作り出す。そうして少し身軽になった鋼の巨人は、湖から上陸すると、周囲の建物を踏み潰し、或いは左腕に搭載された駆動ブレードで薙ぎ払う。
より人の多い場所を求めて突き進む鋼の巨人……その後には、滅びしか残らない。
「佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)さんからの情報により、先の大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスの復活を予知できました」
そう言って、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、中部地方のとある湖の地図を表示した。
「ここが出現地点です」
「放っておけば、たくさんの人が殺されちゃうんだよね! そんな事、絶対させないよ!」
ぎゅぅっ、と拳を固める勇華。
巨大ロボ型ダモクレスがグラビティ・チェインを収集して機能を回復すれば、体内に格納されたダモクレス工場を稼働させ、ロボ型やアンドロイド型ダモクレスの量産を開始してしまうだろう。
起動から7分後に魔空回廊が開き、ダモクレスは撤退してしまう。それまでに撃破しなければならない。
「皆さんには、ダモクレス復活直後、湖のほとりでこれを迎え撃ってもらいます。湖の周辺には、住宅やコンビニなどがあるのですが、市民には避難勧告が出されますし、破壊された街もヒールで修復可能です。敵の撃破を優先させてください」
敵のメイン武装は、左腕に装備されたチェーンソー型のブレード。その他、各種兵装を展開する事で、レプリカントと同様のグラビティを使用することができる。
「敵は本来の性能を発揮できない状態ですが、1度だけならフルパワーで攻撃を行う事も可能でしょう」
「でも、きっとその反動は大きいはず! 気を付けて戦えば、きっと勝てるよ!」
勇華の力強い言葉を受けて、セリカも頼もしそうに頷いた。
「敵が回収されれば、ダモクレスの新たな戦力となってしまうでしょう。それを防ぐため、出撃、お願いします!」
そう告げるセリカは、あたかもレスキューチームの指揮官のようでもあった。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 榊・凛那(神刀一閃・e00303) |
![]() 佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771) |
![]() 上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167) |
![]() エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004) |
![]() エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244) |
![]() 志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953) |
![]() 黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471) |
![]() 篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558) |
●始動! ダモクレス迎撃作戦
湖の周囲は、静まり返っていた。ただしそれは、嵐の前の静けさ。
市民の避難が終わり、人の気配を持つのは、敵を阻むケルベロスのみだ。
「さってと、進行阻止ですね。魔空回廊にも逃がしませんよー」
上月・紫緒(テンプティマイソロジー・e01167)が唇をなめた舌には、地獄が宿る。
今回の任務は、敵が魔空回廊に撤退するまでという制限時間付き。それに、恋人の彼もこの場にはいないことだし、紫緒としては全力を出すことをためらう要素はない。
「この間ダモクレスと戦ったばっかりなのに、またダモクレス……でも取り逃がして合流されると敵の戦力になってしまうし、ここで必ず叩く! エー君もいるし頑張らないとね!」
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)は、「ね!」のタイミングで、傍らにいる恋人……エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)に微笑んだ。
「そうだね。お目覚めのところ悪いけど、早々に眠らせてあげよう」
エーゼットの決意に、ボクスドラゴンのシンシアもうなずく。
この場には、他にもダモクレスと縁ある者達が集っている。エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)もその1人だ。
「封印ダモクレスは、初任務からの長い付き合いになりますわね。あれからもう何度戦ったか分かりませんが……最後には必ず勝ってきましたわ。今回もそうでしょうとも!!」
その時、湖に変化が現れる。
古の封印を破り、再起動する鋼の巨人……ダモクレス。
上半身を現したダモクレスは、しばし停止する。各部のチェックを簡易的に済ませてカメラアイを赤く発光させると、水を押しのけるようにして前進を始めた。
同時に、左腕を変形させ、チェーンソー状の駆動剣を構築。早速、行く手のケルベロス達を排除対象として認定したようだ。
戦いの口火を切ったのは、黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)。
全身鎧に身を包んだ鋼は無言。雄弁さでは、手にしたチェーンソー剣の駆動音の方が勝っているくらいだ。
水しぶきと共に湖から上陸し、ケルベロス達へと進撃するダモクレス。一歩ごとに大地が震動し、建物が揺れる。
(「でかいからなんだと言うなんだというニャ。建設機械ロボットには絶対負けないニャ。金属屑に変えてあげるから覚悟するニャ」)
視覚的にこちらを圧倒してくる巨体にも、志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)はひるまない。
「うん、この手のでっかいのは、こっちもでっかいので抑えるに限るっすね。……あ、みんな、俺のほう間違って攻撃しないでね」
「??」
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)が、一応の確認を取った。皆が首を傾げる中、
「へん……、シンッッ!!!」
荒ぶるグラビティ・チェインを伴い、佐久弥が変化を遂げていく。様々な家電を融合させた恐竜が、現れる。
「にゃっ!?」
佐久弥の変貌を目の当たりにして、藍の白猫耳が、ぴん、と立った。
ダモクレスとレプリカント、元を同じくする二者が、がきん、と組み合う。衝撃が湖面を波打たせ、周囲の木々を揺らす。
しかしダモクレスは、佐久弥を振り払い、次なる標的に向かう。榊・凛那(神刀一閃・e00303)は、その威容から、重機に似た無骨さを感じる。
(「でも、あたしの敏捷さをフルに活かして、相手の隙を突けば……!」)
引き抜かれた斬霊刀が、陽光を弾いてその存在を示す。
「赤堀・いちごがハウスメイド、榊・凛那! 主人の名のもとに……行くよっ!」
●420秒の攻防
凛那が駆ける。手近にあった街路樹や電柱を足場とし、敵の視線の高さまで跳躍。
「集中して……心を、細くっ!」
かざされたダモクレスの右腕の外装に、霊力の刃が傷を刻む。
一方地上では、勇華の星座方陣が完成。星の輝きを浴びた仲間達は、加護のみならず、勇華の勇敢なる心までも受け取る。
守りを得て前進するエルモア。母国の家のすぐ近くの美しい湖を思い出すことで、更に気力を充実させる。
「ここにあるのはわたくしの家ではありませんが……断言しましょう、壊させはしないと!」
エルモアのビームが着弾。被弾箇所を氷結させながらも、ダモクレスは搭載された機銃を発射する。
その追尾から逃れ、道路を駆ける鋼。背後で上がる煙と衝撃は、まとう鎧が防いでくれる。むしろ爆風の勢いを生かして相手との距離を詰めると、その技を振るう。
元は同じダモクレスゆえか、その攻撃は的確な弱点をついて痛打となり、巨体がかしぐ。
傍にあったビルが、ダモクレスの支えとなった。しかし、重量に耐え切れず崩壊していく。シンシアと並んで翼で羽ばたき、落下してくる壁の破片をかわすエーゼット。その身が駆け抜けた後、仲間には銀の粒子のコーティングが宿る。
「あはっ、愛して憎んで、全部ぜんぶゼンブ壊してあげるから。頑張って耐えてくださいね♪」
眼鏡の奥の瞳や舌に狂気を宿した紫緒が、謳う。狂気は、機械生命体であるダモクレスにも感染する。各部の装甲が、内側から破砕されていく。
「守護者よ顕現せよ、凍てつく氷で敵を貫け」
敵を追走しながら、藍が符を投じる。槍で敵の攻撃を跳ね返して現れる氷の騎士。召喚主の意志を受けて突撃、敵の足元を揺らがせる。
だが、そうしたケルベロス達の攻撃を振り払うように、ダモクレスが動く。上半身のみを回転させ、高速化した斬撃が、勇華を薙ぎ払わんとする。
駆動刃とオーラがせめぎ合い、火花に似た粒子を散らす。競り負けた勇華が、後方のマンションの高層階へと叩きつけられる。
何とかがれきの中から脱出を果たし、着地する勇華の元へ駆け付けるエーゼット。今は任務中。努めて冷静に振舞おうとするが、恋人が傷つく様は放っておけない。その意をくんだようにシンシアが降り立つと、自らの属性の力で治療を施す。
だがそこへ、影を落とし、接近するダモクレスの魔手。それを押し返したのは、鎧の戦士……鋼だった。
●超過駆動の脅威
圧倒される仲間を援護すべく、佐久弥が、右胸の扇風機を稼働させた。
取り込んだ空気を使い、胸で燃え盛る地獄を増幅すると、一気に口から吐き出す。噴出した巨大な火炎は赤く舌のごとく、黒と黄のボディを舐め尽す。
それでも勇華の撃った気弾を察知し、回避行動に移るダモクレス。
だが、一度はかわしたかに見えた気弾は、複雑な軌道を描いて追尾、装甲を食い破った。
「見えた……その隙間、がら空きだよっ!」
露出した内部フレーム目がけ、凛那が指天殺を繰り出した。その力は内部に伝播し、回路に障害を発生させる。度重なる攻撃にさらされ、ダモクレスが身をよじる。それは、思うように性能を発揮できないことへのもどかしさを感じさせた。
だが、本来の力を取り戻すという事は、すなわち人々の命が失われる事を意味する。
「あはっ、そんな真似、させませんよ?」
紫緒が振り上げた鎌から、炎が噴き出す。種火となるは、愛。このように狂気に満ちた今の姿、彼には見せられぬ。
「目に映るものをすべてに愛と憎しみを。私の愛をすべて、受け止めて?」
苛烈さを持つ鎌は、巨大なる駆動剣さえも圧倒する。
炎に耐え、反撃せんとするダモクレスの腕が、ぎこちなく空中で制止する。
「この縄は不動明王の羂索、滅罪を象徴する縄よ敵を絡め取れ」
呪を唱えた藍に従い、ダモクレスの四肢が絡み取られる。出力を上げて抗うも、藍の呪縛は強固。たとえ一度逃れたところで、別の呪縛が自由を与えはしない。
その隙に、何度も切りつける鋼。機械のように正確な斬撃のたびに、敵の各部をさいなむ炎が勢いを増し、氷塊が規模を増していく。次々生じるエラー。
だが、ダモクレスが苦し紛れのように撃った胸部からのビームが、紫緒を飲み込んだ。
照射の続くビームを遮断したのは、エーゼットの光盾だ。エネルギーの飛沫をまき散らしてしのぎ切る。
それを追い、ここまでの戦闘で収集したデータをもとに、損傷箇所を攻めたてるエルモア。
後退を余儀なくされたダモクレスだったが、両足から展開したパーツで体を地面に固定する。装甲板から露出したフレーム、そのスリット部分が輝きを放ち始める。
「この力の高まりは……来るよ!」
フルパワー解放の予兆を察したエーゼットが、仲間達に警告を飛ばした直後。
反動を無視した無数の砲撃が、湖のほとりに華を咲かせた。
●決着の刻!
全砲門解放完了……各部から排出された熱が、ダモクレスの姿を歪ませる。
だが、そのセンサーは、熱源を確かにとらえていた。
「さっ、流石の威力だね……み、みんな無事っ!?」
がれきを斬り飛ばして地上に復帰した凛那が、仲間に呼び掛けた。
答えは、天に向け放たれた一筋の光状。アームドフォートの射撃で電柱を薙ぎ払い、鋼が姿を現す。
「当然ッ! 耐えきりましたわ!」
佐久弥がどけたコンクリート塊の下から、エルモアも立ち上がる。そのプライドにかけて、気弱など一片たりとも見せぬ。
「あと少し、頑張る……にゃ!」
残り2分と時間が少ない事を悟った藍が、符を構え直す。見たところ、無理な超過駆動を行った反動で、ダモクレスは一時的に機能を停止している。
「今なら……回復と防御は任せて、決着を!」
エーゼットとシンシアの声援、そして強化を受け、ケルベロス達が攻めに専念した。
「今度はこの大地で……永遠に眠りなさいッ!」
エルモアのアームドフォートが、火を噴いた。だが、それはダモクレスの太もも部分をかすめただけ……否!
周囲に浮かんだ六機のユニット『カレイド』が、エルモアのビームを反射。ダモクレスの頭部を直撃した。
「ガアアアアッ!!」
大気を揺るがし、響く吠声。ダモクレスが佐久弥の方を向いた直後、巨大な尻尾が刃の如く弧を描き、相手の頭部を直撃した。カメラアイのクリアカバーが破砕し、中の視覚ユニットが露出する。
「たぁぁぁぁっ!」
裂ぱくの気合とともに、凛那が神なる一閃を決めた直後、紫緒の狂宴が最高潮を迎える。自分も攻撃に耐えたのだ。ならば同じく耐えてみせろ、とばかり、注がれる狂気のグラビティ。
そして鋼が、胸部に取りついた。掲げたチェーンソー剣を差し込み、装甲を剥ぎ取る。露出したコアを目指し、桜花のオーラをまとった勇華が跳び上がった。連打に次ぐ連打。決めの一発は利き腕の右だ。
「少し早いけど、最後の奥の手だよ」
チャンスと見た藍が、霊装を発動させた。サイズこそ相手に劣れども、威力は確か。霊力をこめた一撃がコアを、遂に打ち砕いた。
藍が縛霊手を引き抜くと同時、カメラアイから光が喪失する。完全に機能を停止し、金属塊と化したのだった。
敗れし相手の残骸を砕く鋼。それは、戦士の亡骸を汚させはしまいという、彼なりの弔いの形だ。
戦いを終えて、力を解除する佐久弥。仲間達の、そして勇華の無事を確認し、エーゼットも安堵する。
「うあー、つっかれたー」
紫緒もまた、大の字に寝そべった。狂気は霧散し、からりと晴れた空のような笑みが浮かぶ。
それから、凛那や勇華が、壊れた周囲の建物にヒールをほどこしていく。
「他者ヒール、苦手なんだけどな……」
ぼやきつつも、凛那の力を浴びた損傷物は、次々と再構築されていく。
果たしてダモクレスの侵攻、そして敵戦力の増強はケルベロス達の活躍によって阻止された。
そして、静けさを取り戻した街並みの中……湖に向け、敬礼する鋼の姿があったという。
「俺は、最後までダモクレスとして戦った貴方を誇りに思う」
| 作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
|
種類:
![]() 公開:2017年5月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
|
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
|
||
|
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
|
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
||