地下廃線に蠢く緑の巨人

作者:河流まお

●忘れられたその場所で
 大都市『東京』のすぐ足元。交通の要として張り巡らされた地下鉄の網模様。
 だが、その中にはすでに廃線となってしまった路線も少なからず存在している。
 大正から昭和にかけての混乱期には様々な都市計画の構想や見直しがあったそうだ。
「ふおお……! ここが地下廃線ッ!」
 そんな地下深い闇の中で、安全ヘルメットを着けた女性が感動の声を上げた。
 彼女の趣味は廃墟探訪。そして、その熱き情熱を満たすためにフリーのカメラマンという職業についている。まぁ実入りは雀の涙なのだが。
 今回、この廃線を撮影する許可を得るために彼女が注いだ労力を語ると、それだけで一つの物語になってしまうわけだが、まぁそんなことはともかく。
「す、すごい……」
 冷たく、湿った空気が汗ばんだ彼女の肌を撫でる。足元を見れば酷く錆び付いたレールが敷かれてあるのが見て取れた。
 視線を上げ、ヘルメットに取り付けられた電灯で暗闇の先を窺ってみるものの、その横穴の全容を見通すことは出来ない。
 息を潜めれば、耳が痛いほどの静寂。
 朽ち錆びた線路。時の流れと雨漏りに侵食され、かつての姿を徐々に失ってゆく駅。
「ま、まさにビューティフルだわ……」
 彼女はこういうものに侘しさと切なさと『美しさ』を感じてしまうのだ。全くもって人の美的感覚というものは千差万別だ。
「おっといけないわ。お仕事お仕事、と」
 涎を拭い、地下廃線のホームを撮影し始める女性。
 だが、彼女はもう少し『頭上』を注意深く観察しておくべきだったのかもしれない。
 地下廃線の天井、雨漏りしている部分にびっしりと苔むした場所がある。その苔が、ざざざ、と不気味に波打ったのだ。
 それは安眠を邪魔され、身震いをして目を覚ます巨人の背中を思わせた。
「――ん?」
 女性が異変に気が付いて頭上を見上げた瞬間。苔で構成された攻性植物は全身を大きな口に変え、女性を一飲みにしてしまうのだった。

●闇に住まう苔の巨人
 予知を語り終えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が静かに語り出す。
「数日後、あるカメラマンの女性が攻性植物に寄生されるという事件が起こります」
 彼女は廃墟を好んでテーマに選ぶカメラマンで、今回東京の地下廃線を撮影しにいった際にその場所に潜んでいた攻性植物に襲われてしまうことになる。
「敵は攻性植物1体のみで、配下は居ません。ですが……」
 寄生された女性の生命活動は攻性植物と強く紐付けされており、普通に攻性植物を撃破すればそのまま彼女も命を落とすことになるだろうと、セリカは苦々しい口調で説明する。
「なんとか被害者を救い出す方法はないのか?」
 ケルベロスの一人の問いかけにセリカは頷く。
「僅かですが可能性は残されています。かなり危険な方法ですが……」
 セリカが語ったのは過去の寄生型攻性植物との交戦事例のひとつ。
 寄生型攻性植物にヒールをかけながら戦い、回復不能ダメージを積み重ねて撃破するとことで、戦闘終了後に攻性植物の中から寄生された人を救出することが出来たことがあるそうだ。
「今回の攻性植物も見た目こそ苔の塊ですが、性質としてはこの近似種であり、同じ方法が通用するはずです」
 だが、相手は凶暴な攻性植物だ。こと戦闘を有利に進めるのを重視するならば、このヒール作戦は選ぶべきではないといえる。
 セリカからケルベロス達に提示された依頼の成功条件は『攻性植物の撃破』のみ。つまり被害者の生死はこれに含まれていない。判断はケルベロスに委ねられた形だ。
「とても暗い場所での戦いになります。明かりの準備を忘れないようしてください」
 そう説明を結び、セリカはケルベロス達に「宜しくお願いします」と、深く一礼するのだった。


参加者
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
天照・葵依(蒼天の剣・e15383)
小花衣・雅(星謐・e22451)
ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)
ホルン・ミースィア(ヘイムダルの担い手・e26914)

■リプレイ

●東京地下へ
 ケルベロス達が鉄道職員に案内されて訪れたのは、秋葉原駅にほど近い大通りの一角だ。アニメキャラクターの大弾幕を掲げたビル群の下、人々が雑多に行きかうこの歩道の真ん中で、鉄道職員はいきなり足を止めてケルベロスに向き直る。
「ここが地下廃線の入り口です」
 そういって彼が指差したのはすぐ足元。歩道に差し込まれた金網だった。
「え、ここからなの!?」
 不意打ちじみた鉄道職員の言葉に驚きの声をあげるホルン・ミースィア(ヘイムダルの担い手・e26914)。
「えーと。わたくし、もっと寂しい場所にある入り口を想像していましたわ」
 ドゥーグン・エイラードッティル(鶏鳴を翔る・e25823)が周囲を見渡しながら一言。休日の秋葉原の中央通りは歩行者天国実施中で、溢れんばかりの活気に満ちていた。
「ちょっとイメージと違うわね……」
 小花衣・雅(星謐・e22451)の言葉に、相棒のアステルも頷くように「ニャー」と一声。
「まさかの街のど真ん中、か……」
 忍ぶに忍べないこの状況を少し居心地の悪そうにしながら樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が呟く。
 鉄道職員が金網の取り外し作業を始めると案の定、一般市民が「なんだ、なんだ?」集まってきた。
「お、ケルベロス?」
「もしかして任務かい? 頑張ってな!」
「おーう、応援サンキューな」
 燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)が人々にガッツポーズを返すと周囲は割れんばかりの歓声に湧く。
「たまにはこういうのも悪くありませんわね」
 柔らかな笑顔で観衆に小さく手を振りながらドゥーグン。
 人知れず戦うことが多いケルベロス達、たまにはこうして歓声の中での出陣というのもいいだろう。
 さて、そんな予想外の声援を背に受けながら地下廃線へと続く階段を下ってゆくケルベロス達。
 地下に入ってまず感じるのは停滞した空気の中、仄かに漂うカビの匂いだ。壁や床には細やかな塵や泥がこびり付き、元の材質が何だったのか判別できないほど薄汚れている。
 すぐ真上にある大都会の喧騒とは対照的に、その場所は不気味なほど静まり返っていた。
「ヒュゥ、こいつはすげえ、東京の足元にこんな場所があったとは」
 地下探検を楽しむ様に口笛を吹く嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)。その後ろ、頼れる背中にくっつくように歩く少女が一人。
「な、なんだかお化けとか出てきそうな雰囲気だね……」
 愛猫ルナをその胸に抱えながらガクブルしつつ階段を下りるホルン。魂の導き手たるヴァルキュリアがお化けを恐れるのもいかがなものか。
「魂を看取るのは慣れてるけど……お化けはダメっ! 脅かしたり襲ってきたりするあいつらは別物だもんっ!」
 ホルンちゃん力説。そういえば昨晩のテレビ番組『恐怖! 夏の心霊スペシャル』は過去最高の視聴率だったそうですが、まぁそれはともかく。
「――棄てられた廃線、か」
 雅の瞳が僅かに揺れる。
 人々に必要とされて造り出され、いつしか不要とされて破棄されたこの場所では、彼女が思うところは多いのかもしれない。
 自分たちが響かせる足音を聞きながら階段を下ってゆくと、ほどなくして下層から女性の悲鳴が響いてきた。被害者の女性が攻性植物に取り込まれて発した悲鳴に違いない。
 ここまではヘリオライダーの予知通り。そして、ここからを覆すのがケルベロス達の仕事だ。
 天照・葵依(蒼天の剣・e15383)が決意を秘めた眼差しで仲間たちに向き直る。
「人命優先! これに尽きる。異論があるものはいないよな!?」
 迷うことなく凛と告げる葵依にレンが頷く。
「無辜の民草が謂われなく命を奪われる等、断じて見過ごせん。この忍務、必ず成し遂げる」
 言葉と共に疾風のように駆けだすレン。彼を先頭に攻性植物の住処である地下廃線へと走り出すケルベロス達。
「人命優先か……耳の痛い話だ」
 過去に何度となく人質ごと敵を倒した経験があるコクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)には、迷うことなく真っ直ぐに人命救助を選ぶことができる仲間達の姿がいささか眩しく映る。薄闇の中で目を細めながら、コクヨウは傍らのオルトロス『ゴースト』にだけ聞こえるように語り掛ける。
「ゴースト、ようく見ておけよ。人を救うのが当然だと、なんのてらいも無く言えるヤツの強さをな」
 主人を一瞥し、低い唸り声で応えるゴーストは、まるで「お前らしくもないことを」とコクヨウを嘲笑っているようにも見えた。
「さあ、いくぞ! 今回も頼りにしているからな! コクヨウ!」
 そんなコクヨウの複雑な思いを知ってか知らずか、葵依がバシッとコクヨウの背を叩いてサムズアップ。
「ああ、任せておけ」
 葵依に背を押され、コクヨウもまた仲間達を追って走り出す。彼にしては珍しく、『誰かを救うため』の戦いへ。

●暗闇の中の激闘
 地下廃線のホームに辿り着けばもはや地上の光の一切は届かない。各々が持参してきた明かりを灯すケルベロス達。
「いやがったぜ。アイツだ」
 暗視ゴーグルを使い一早く敵の姿補足した亞狼が仲間たちに警戒を促す。彼の示した先、ぬぼーっとした風体の3m超の苔の巨人がゆっくりと廃線上を闊歩していた。
 敵も直ぐにケルベロス達に気が付いたようで、グルリとこちらに振り返る。
「オオオオーンッ!」
 木管楽器の様な叫び声を上げながら巨人が迫ってきた。瞬く間にその上半身の形状を変化させ捕食形態をとる攻性植物。
「おっと、おめーの相手ぁこっちだ」
 仲間を庇い、鰐のアギトのような敵の毒牙をその身で受け止める亞狼。手傷を負いながらも『Burning BlackSun』をお返しに敵に叩き込む。
 亞狼の一撃を戦闘開始の口火として、次々と初撃を叩き込んでゆくケルベロス達。
「オオオオオッ!!」
 獲物が思わぬ反撃してきたことに怒りの咆哮をあげる攻性植物。
 狂乱し振り回す敵の剛腕が地下空間を支える支柱の一つを粉々に破砕する。
「とと、生き埋めにされちゃかなわないぜ」
 敵の大暴れっぷりに感心しながらも陽治がサークリットチェインで前衛の護りを固めてゆく。
「落盤でもすれば、私達も廃線の幽霊に仲間入りね」
 クスリと悪戯に笑いながら雅が舞踏のように旋刃脚を叩き込む。その背から相棒のアステルが飛び出しキャットリングで敵を狙い撃つ。
「うぅ、縁起でもないよぉ」
 攻性植物にも負けない巨体を誇る鎧装から涙声が響く。
 見た目はゴツイがこの鎧の纏い手はホルン。騒音響かせる彼女のチェーンソー斬りがガリガリと敵の身を削ってゆく。
「後ろは任せろ! 各々の役割に集中するんだ!!」
 後方から戦場全体を把握しながら仲間たちを支える葵依。こと今回の戦いでは作戦ではメディックが担う役割は大きい。回復専任の葵依と、臨機応変に攻撃にも参加してゆく雅の二本柱だ。
 さて、ケルベロス達とった戦法は、初めから長期戦を見越した防御重視のものだ。
 思わぬ過剰攻撃で被害者の命を奪ってしまわぬ様にと、クラッシャーとスナイパーを排したこの布陣は、被害者の生命を第一に考えた安全策であると同時に、ケルベロスたち自身が削られることを顧みぬ危険策ともいえる。だが――。
「ぁ? なもん知るかよ」
 元より覚悟は出来ている、とシャウトで己の身を支える亞狼。
 回復不能ダメージが積み重なるのはお互い様、あとはどちらが先にくたばるか、だ。
「やり辛そうだなゴースト。俺もお前も酷いザマだ!」
 戦闘開始から10分ほど経過したか、お互い傷だらけの姿を見てコクヨウが口元を歪める。ただ敵を殺すだけならずっと楽だというのに、全く非効率なやり方だ。
 だが、たとえ傷だらけになっても救出を諦めるものはいなかった。
「オラオラ回復頑張れや……俺らに負けんなよ」
 中衛と後衛に敵の攻撃がいかないよう、積極的に『怒り』を付加してゆく亞狼。倒れる寸前まで傷つきながらもディフェンダー陣は仲間を守り続ける。
「わかっている。任せておけ」
 敵の猛攻にあわや崩れそうになった前衛を支えるは葵依。
「蔦を司る申の神よ! 今こそ白雪に咲き添いて、枯れたる苦界を潤わさん! いざや聞こし召せ蔦ノ花神!!」
 神器『黒牙』を眼前に構え、大空洞に響き渡る朗々たる声で葵依は叫ぶ。
「――!」
 瞬間、闇に支配されたこの場所に眩い光が駆け抜けた。地下廃線にこびり付いた不浄の苔を浄化するかのように、白雪の花がその上から芽吹き、その癒しの力を行使する。葵依の切り札『神器開放:蔦ノ花神(ジンキカイホウツタノハナガミ)』だ。
 綱渡りの様な回復調整を行いながら、なんとか敵の猛攻をしのぎ続けるケルベロス達。
「光の翼に反応!? たぶん鈴本さんだと思う!」
 ホルンの纏う巨大鎧装『The SoulConductor』のセンサーの一つが攻性植物の体内に取り込まれた被害者の生体反応を捉えた。
 より慎重に回復不能ダメージを積み重ねてゆくと、やがて敵の身体を構成する苔が剥がれ落ちはじめ、胴体部分に取り込まれていた鈴本の姿が見えてきた。
「う……」
 どうやら意識はあるらしい。
「鈴本様、わたくしの声が聞こえますか。今、お救い致しますわ」
 鈴本が意識を保つように呼びかけながらドゥーグンが杖を構えて印を結ぶ。
「稔りを纏い、雷の如くあるものよ」
 まるで太陽が現れたかのような、圧倒的な閃光が漆黒の闇を白く染め上げる。誰もが瞳を閉じるその一瞬、光り輝く獣が走り抜け敵に襲い掛かる。
「オ……オォオ」
 喉笛を引き裂かれた攻性植物がか細い悲鳴をあげた。
「ひいい!」
 ケルベロスと攻性植物の激しい戦いに攻性植物の中で必死に身を縮めている鈴本。そんな彼女に攻撃が当たらないよう、細心の注意を払いながらレン。
「苦しいだろうが、俺達を信じてもう暫く耐えていてくれ。必ず貴女を助け出す」
 魔を撃滅せし不動明王、その化身たる倶利伽羅竜王の如く。レンが放つ斉天截拳撃が攻性植物を吹き飛ばすと、敵のその巨体が老朽化していた壁に派手に突き刺さる。
「さぁて、そろそろ仕上げだな」
 敵の様子を注意深く観察していた陽治が、敵の身体の節々が枯れ始めていることに気が付いた。念の為にと、もう一度ヒールを敵にかけ、陽治が鈴本に叫ぶ。
「いくら廃墟好きでもアンタも仲間入りは望んじゃいねえだろ、もう少しの辛抱な!」
 陽治の呼びかけに、必死に頷く鈴本。
「オ……、オォオオ」
 枯れそうな四肢を奮い立たせ、なんとか瓦礫から這い出す苔の巨人。
 だがそこに、淡い輝きを放つ翼を持った少女がこの舞台の幕を引くために立ちふさがる。地下空間の暗闇を静かに照らすその金色の両翼は、まるで夜空に浮かぶ月を思わせた。
「さあ、教えて。今の気分はどちらかしら?」
 雅が問いかけるのは『気まぐれな王様(ケット・シー)』。
 時に救済、時に破壊。くるくると気まぐれに踊りその表情を変える、まるでコインのような表裏一体の二面性を持ったこの能力。
 その気まぐれが選んだのは――。破壊。
「オ、ォォ……」
 王の裁きを受け、攻性植物が最後の生命力を奪われる。ざわわ、と全身を覆うその苔が揺れると、瞬く間に枯れ果ててゆきその巨体を仰向けにして沈めるのだった。

●ヒーローの背中
 攻性植物から解放された鈴本にドゥーグンが駆け寄る。鈴本の上体を引き起こすと、その胸が呼吸で僅かに上下しているのが見て取れた。
「大丈夫です、生きていますわ」
 ドゥーグンの言葉に仲間達もホッと一息をつく。
「今回は救う事ができたか。……こうする事が当たり前だと言えたのなら、お前ともう少し仲良くできたのかもしれないな」
 傍らのゴーストを撫でるコクヨウ。主人から顔を逸らすゴーストだったが、撫でられることには珍しく抵抗はしないようだ。
「終わったか。んじゃ後は任せたぜ」
 片付けや後処理を横着したかのか、亞狼は役目は果たしたと地上への階段を先に上がってゆく。
 とはいえ、地上では固唾をのんでケルベロス達の帰還を見守る野次馬の皆さんが彼を待ち構えているかもしれないが。
 さて、ドゥーグンがヒールを施すと鈴本はすぐに目を覚まし、深々とケルベロス達に頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……」
「ご無事で何よりですわ」
 見たところ、外傷は転んで肘を擦りむいた程度のようだったが、念のためと診察・手当てを行う医師の陽治。
「うん、問題なしだ。その肘は消毒しとこうか」
 テキパキと処置を済ませ陽治が笑う。激しい戦いが終わったばかりでその額からは血が滴り落ちて彼の白衣を汚していた。他のケルベロス達も大体似た様な様子で、正直なところ鈴本よりもケルベロス達のほうがよっぽど重傷だ。
「すいません、私が廃墟探索なんてしていたせいで……」
 申し訳なさそうに鈴本。このまま廃墟探索を引退してしまいそうな感じだ。
「地下や廃墟へのワクワク感は判らないでもない。好きこそものの何とやら、好きなものでしか人は成功できないともいう」
 レンが縮こまる鈴本にフォローをいれる。
「どうか、これに懲りずにこれからも己の情熱を写真にして人をワクワクへ誘ってくれ。
 ……ただし出かける際は色々と気を付けてな」
 レンの言葉を胸に刻みながら鈴本は頷く。少し元気が戻ってきたようだ。
「あー、新しいテーマ探してるんだっけ? ケルベロスのヒール修復に伴う芸術、なんてどう?」
 破壊痕を指差しながら陽治。
「ふふ、それも素敵ですね。でも、次のテーマはもう見つけたんです」
 へぇ、それは何だい、と陽治が尋ねる前にホルンが駆け寄ってくる。
「ねね、さっさとこんな狭くて暗い所からでよーよっ! お化け出そうで怖いもんっ!」
 ぐいぐいと鈴本の手を引いて引っ張り起こすホルン。確かにのんびりと話をするには不気味すぎる場所だ。任務が終われば長居は無用というものだ。
「では帰還しようか。勝利の凱旋だ」
 愛刀、黒牙を鞘に納めながら葵依。
 ケルベロス達に先導されながら、地上への階段を上り始める鈴本。
「空が綺麗ね。ずっと暗闇の中だったから一層そう感じるわ」
 雅の言葉に顔を上げて仰ぎ見れば、階段の先に暗闇を切り抜いたかの様な鮮やかな青の色彩があった。
 そこから差し込む眩しいほどの陽光と、その光に向かって進むケルベロス達の背中。
「おっと、これはシャッターチャンス」
 さて、廃墟写真には『人物』をいれないのが原則である。ゆえに、いま鈴本が撮ろうとしているのは『廃墟写真』ではない。
 それは彼女が探していた新しい写真のテーマ。
 見ず知らずの誰かの為に、傷だらけになりながらも戦う彼等の姿に、鈴本は眩しいほどの『美しさ』を感じたのだ。
「うん、最高にビューティフルだわ」

作者:河流まお 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年8月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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