
●じゃぱにーず武士道
「武士 is Cool!」
ぶわさっ、と翼をはためかせ、ビルシャナは刀を高くかざした。
「おおおおおお!!」
周囲にいる8名の信者は皆、同じように模造刀を翳す。
「ハラキリ!」
「武士道!」
「カッコイイ!」
きゃっきゃとはしゃぐ信者達。ビルシャナはちんっ、と音を立てて刀を腰の鞘におさめると、獰猛な瞳を光らせてこう言った。
「武士の世を、今こそ現代によみがえらせようぞ」
「切り捨て御免ッ!」
「おおおおおおおっ!」
声を上げる信者達。ぶっちゃけ、切り捨て御免も武士道も意味はよくわかっていない彼らは、一体何をしようというのか……。
●素人の帯刀は危険です。
「キャプテン・フィガーロ(偉大なるキャプテン・e29198)さんに頼まれて調べてたらね、武士の世再興明王が現れるってわかったんだ……」
秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)はこめかみを抑えて唸った。
「いや、僕も何言ってんのかよくわかんなくなりそうだけど、ほんとそういうビルシャナなの」
なんでも、武士はかっこいいという謎の先入観から、素人なのに刀を持とうとしている奴らだそうだ。持っている刀は模造刀だが、こいつらの活動が活発化したらそのうち真剣を振り回しかねない。
「信者は八名。頑固そうなおじいちゃんから、日本文化大好きな外国人の方、まあ、なんか色々いるね」
ざっくりと説明して祈里は小さくため息をつく。
「……変な奴と思うかもしれないけど一応デウスエクスだからね、炎を飛ばして来たり、鐘を鳴らしたり、念仏を唱えたりするよ。え? 刀? 模造刀だからそれは使えないっぽいね」
もっとも、ビルシャナの配下となっている信者は模造刀をぶんぶんふりまわして攻撃してくるかもしれないけど、と祈里は言った。
「信者の誰もが『武士道』を正しく理解していない感じだね。切り捨て御免は好き勝手切り捨てて良いルールだと思ってるっぽいし……」
そうじゃないって事が解ればちょっとは目を覚ましてくれると思うんだけど、と告げて、祈里は頭を下げた。
「野放しにしてたら、彼らが暴走するのは目に見えてる。お願い、早いうちにとめてやって……!」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() リィン・リーランス(はビルシャナを唐揚げにする・e00273) |
![]() 眞月・戒李(ストレイダンス・e00383) |
![]() ホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709) |
![]() ラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050) |
![]() サブリナ・ロセッティ(ブリスコラの魔女・e21766) |
![]() スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305) |
![]() 葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315) |
![]() キャプテン・フィガーロ(偉大なるキャプテン・e29198) |
●
(「どうして、こう……ビルシャナは、はた迷惑な騒ぎばかり起こすのかしら……」)
はぁ、とこめかみを抑えてラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050)は深いため息をついた。廃墟の扉を開けると、何やら楽しそうに刀を振りかざしている奴らがいる。
「私は武士に憧れている訳ではございませんが、このような惨状を見たら、昔の武士が涙しそうですね」
「何でしょう、このやけにバカにされているような感じは。武士道というよりはチャンバラですね」
なんだかイラっとくる、と葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)はうなずいてため息を返した。
「な、なにおうっ」
チャンバラをしていた信者がこちらへ向かってくる。ラズリアはそんな信者を前にして、淡々と告げた。
「『武士道とは死ぬことと見つけたり』という言葉がございますが……すぐに切腹しろとか、そういった意味合いではないのですよ」
「そそそ、そんなこと知っている!」
絶対知らなかっただろうな、という感じだ。
「死に時を間違えない者こそ武士。誇り高く生き、誇り高く死ぬ……それが武士道なのではなくて?」
「ぐっ」
ラズリアは二の句を継がせない。
「それに引き替え、あなた方ときたら……良い年をして、ただのチャンバラごっこではございませんか。情けないことです、あなた方の武士道、認める訳には参りません。さっさとこの場からお帰りなさい」
「ふ、ふええ」
情けない声を出して、一人の男が逃げ去っていった。やはり、その程度なのである。
「なんと無礼な女だ! 切り捨て御免じゃあぁあ!」
叫びながらこちらへ向かってくる二人の男。
「切り捨て御免で人を斬るって、思っているほど爽快じゃないよ」
きっぱりと眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)が言い放つと、ぴたりと男たちの動きが止まった。
「へ?」
「ねぇ……あなた達斬りすて御免って本来の意味知ってるの?」
にたり、とスノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)が蠱惑的な笑みを浮かべる。なぜかその笑みにびくりと足をすくませた男たちに、戒李がすっと歩み出て説明してやった。
「まず役所に届出を出して、その後は理由がどうあれ20日以上は謹慎で家から出れない」
「えっ」
やはりこいつら知らなかったパターンだ。
「武士の魂である所の刀も証拠として押収されるし、そもそも切り捨てるに足りる理由を証明できる自分以外の証人を連れてこないといけない」
「そ、そうなの?」
こくり、と戒李はうなずいた。そして、
「その上で正当性が認められて初めて斬り捨て御免が成立する。ちなみに認められなかった場合は最悪切腹ね」
と、腹を指さす。男の顔がさっと青くなった。
「武士だろうと人を殺せばそれなりのリスクを背負うんだ。それでもやりたい?」
「りりりりりすく」
スノーはあくどく微笑む。
「……正しいって認められなかったら更にその親族郎党全員打ち首っていう決闘よりも重い規律だったのよ?」
舌なめずりをしながら、楽しそうに続けた。
「勿論知っててやってるのよねぇ? 遊びでそんな言ったらどうなるか解ってるわよね?」
どうなってしまうのだ。スノーは男二人を槍でつんつんと軽く突く。男たちは、泣き出しそうな顔をして、
「すみませんでした!!」
と、去ってゆくのだった。
●
「か、構うかっ!」
一人の男が模造刀をかざす。
「あのね? もしかしたら模造刀ならいいって思ってるかもしれないけれど……模造刀携帯も立派な銃刀法違反だって知ってた?」
サブリナ・ロセッティ(ブリスコラの魔女・e21766)がことりと首をかしげると、男はえっと声を上げた。やっぱり知らなかったパターンだ。
「そんなの持ってたら武士の世再興する前に逮捕されるんじゃ……?」
そのサブリナの問いかけに、男はかしゃんと刀を取り落とす。
「そ、そうだったのか! それはまずい! 出直そう!」
「えっ」
ビルシャナはそんなの気にしないで、と止めるが、何か変なところでルールに忠実な男は走り去ってしまう。
「ぐぬぬぬ」
うなるビルシャナと残る信者たち。先刻まで難しそうな顔で何やら本を読みふけっていたリィン・リーランス(はビルシャナを唐揚げにする・e00273)がやっと顔を上げた。
「『衆道は武士の嗜み』と書いてあるのですけど、衆道って何ですかです~?」
若い男がぐっと息を詰まらせた。こんな幼い少女にそんなことを聞かれるとは。
「あ……えー、えーと衆道ってのは」
もごもごと口ごもる男。リィンはこてん、と首を傾げ、期待に満ちた瞳で男とその傍らにいた男を見つめた。
「良く判らないのです~? 実際にやってみてほしいのです~」
見つめあう男二人。
「む、無理……」
「俺も無理」
そして、すっぱりと武士の道をあきらめる二人であった。
「えっ、ちょ、なにも衆道イコール武士道じゃないよ!?」
ビルシャナの声は届かない。
「わしらは退かぬぞ!」
「おうっ」
頑固そうな老人と初老の男が残った。うーん、これは面倒くさそう。サブリナがはぁ、とため息をつく。平和な世の中で、スリルやロマンを求める気持ちはわからなくもないが、こうも誤解されては本物の武士だって迷惑してしまう。
「武士は刀を持って振り回せばなれるものじゃないの。武士の世にならなくても、刀を持ってなくても、武士の魂を受け継いでる人だっていると思うわ」
「ふんっ、刀こそ武士よ!」
老人はサブリナに見せつけるように、偉そうに模造刀を抜いて見せる。でも、風流は見るからに彼らの型がなっていないことに気づき、問うた。
「スポーツとしてチャンバラをなさるのならそれで構いませんが、こちら側の世界に足を踏み入れるというのであるのならば、その身に教え込んであげましょうか?」
「なっ」
「まず、人を斬る刀の手入れはできるんでしょうね? 人体には硬い骨があるので刃こぼれはよく起こすんですよ」
臆することなく男に近寄って模造刀の刃をつつ、となぞった。老人はぐぬぬと押し黙る。
「それにどうせ見様見真似でしょうから型とかもいい加減なんですね。剣の道はそう容易くはないんですよ」
やれやれ、といった風に風流が告げると、初老の男がむっとした顔で言い返してきた。先刻まで黙っていたホワイト・ダイヤモンド(面倒臭がりな妖刀持ち・e02709)が口を開く。
「なんなら実戦形式でもいいよ?」
ずり、ずり、と妖刀・黒桜の切っ先を引きずりながら、まがまがしい雰囲気を演出するホワイト。その瞳の奥を昏く光らせ、
「これとかち合いする事になるけどな」
と付け足すと、たまらず初老の男が身震いした。
「は、はひ……勘弁してくだし……」
そそくさと逃げ出す男。残るは一人。老人だ。こいつ、意地でも引かない気か。
●
「余はキャプテン・フィガーロである。畏まるでない、楽にせよ」
そこで光の翼を広げ声をかけたのが、キャプテン・フィガーロ(偉大なるキャプテン・e29198)である。
「ふんっ、畏まってなどおらんわい」
「刀とは心、武士とは生き様……一時の思いで刀を振るう、それはお前の思う武士道か?」
「……!?」
さあ、来いと槍を構えて、くい、と手で合図をした。――甘い考えの者達を、このキャプテン・フィガーロが導こう。
「くっ、生意気なやつよ……!」
身をもって知り、身をもって知った者を見ることが何よりも薬であろうと考えたキャプテン。老人に刀の心得はない。すぐに見切り、がむしゃらに振り下ろされた模造刀を弾き飛ばすと、その老人の足を軽く払った。
「そのような紛い物ではなく、芯の通った真っ直ぐに立つ己の姿こそが真の刀、武士の姿よ」
しりもちをついた老人に歩み寄り、言い放つ。ぐっと唇をかみしめた老人、お前は、お前らは今の己が刀に成れていると思えるのか? とビルシャナを含めて問う。
「あっぱれよ、わしが間違っておった! 修行しなおしてこよう!」
どこかすっきりしたような表情で顔を上げると、老人は颯爽と廃墟を去っていくのであった。
「ぐぎぎぎぃ……」
ついに一人ぼっちになってしまったビルシャナは悔し気にこちらを睨みつけてくる。
「変な知識で人を惑わせて、危険な目に合わせようとする悪いビルシャナは、しっかり羽根を毟ってやろう、ね!」
戒李は言葉尻に乗せ、Danser Ifritahを纏った拳で勢いよくビルシャナを殴りつける。
「ふぐっ」
ビルシャナが立ち上がる間もなくホワイトは肉迫し、ぐるりと回し蹴りを叩き込んでやった。
「あぶ!」
完全に先手を取られたビルシャナだが、なんとか立ち上がり怪しげな念仏を唱え始める。
「武士道切り捨て御免無礼悪逆民草切り捨て……」
「耳障りね……」
片手で耳を抑えながら、スノーは紙兵を前衛のケルベロスたちに展開する。
「それは武士道とは言わないわよ」
サブリナのバトルオーラを纏った拳がうなりをあげてビルシャナにめり込む。
「おごっ」
「たぶん武士の世にするのは間違っていなかったと思うのです~。間違っていたのはビルシャナの説法の仕方だと思うのです~?」
リィンがそういうと、ビルシャナは地団太を踏んで悔しがる。
「ちがう! この私に間違いなどないっ!」
「マン号、がんばれなのです~♪」
主の声に応え、シャーマンズゴーストはごう、と炎を飛ばす。
「あちっ」
その隙にと、リィンはオラトリオヴェールで傷ついた前衛のケルベロスを癒すのであった。
「ぶ、武士とはなあぁ!」
まだ語ろうとするビルシャナにリィンはすっと人差し指を突きつける。
「つまり悪いのはビルシャナで、責任をもってハラキリをするしかないのです~。それが武士の世の理なのです~よ」
ケルベロスたちから『切腹しろ』という無言の圧力を感じた気がしてビルシャナは一瞬びくりと肩を揺らす。
「は、腹を切ってたまるかぁああ!」
ビルシャナが飛ばした炎を、アレッタが受け、そのままラズリアを守るように清浄の翼で飛ぶ。
「チャンバラごっこはお終い、ですよ?」
星誓のアイギスを鋼の鬼と変えると、ラズリアはそのままその拳を模造刀を構えるビルシャナへ叩きつけた。カシャーンと音を立てて模造刀がすっ飛んでいく。握りが甘かったのだろう。
「模造刀でも大切な武器は、丁寧に扱うものですよ」
ラズリアはふわりと笑う。
「ここまでに達するだけでも相当な修行が必要だということをその身に味わって下さい」
がらんがらんと響きわたる鐘の音にもひるまずにいつの間にかビルシャナの眼前に立っていたのは風流。その安売日本刀『猛狩抹過』をゆるりと弧を描く太刀筋で振り下ろす。
「ぐあああがっ」
風流の放つ月光斬の確かな切れ味は、不心得者のビルシャナには酷く痛むことだろう。
●
「余は貴様らビルシャナを嫌悪する」
キャプテンは怒りをその声色に滲ませ、ビルシャナへと迫った。ビルシャナの姿は何の心得もなく、まるでわがままな子供の如く。そんなものが民衆を導こうとしていたことへの憤りを抑えるなど、到底できなかった。
「かける慈悲もなく、容赦もなく、滅ぼしてくれる」
告げると、その身を光の粒子へ変え、ビルシャナのど真ん中めがけて突撃する。
「あああああああ!」
這いずり逃げ出そうとするビルシャナへと、スノーは楽し気に言い放つ。
「楽しい魔法の実験台になってくださいな。勿論拒否権はないんですけどね♪」
足元に展開させた魔法陣がカッと光の柱を発する。焼き尽くされる女王の裁定。逃げ出せぬビルシャナに、容赦なくホワイトが連撃を叩き込む。
「耐えてみれば?」
「ひっ、ヒィイッ」
それでも、ビルシャナは叫ぶ。
「わ、私は武士の世をぉおおっ!」
「そんなに武士の世が良いなら、ずっといればいいのです~。『切り捨て御免』され続けてくださいです~」
リィンが引導を渡す。彼女が世界終焉の悪夢を見せると、ビルシャナは瞬間的に切り捨てられる夢へと誘われた。それからは、もう、悲鳴の連続だ。その痛みを現実へと引き起こされたビルシャナは、積み重なったダメージについに消え失せるのであった。
「あとは……何かある?」
ホワイトは、廃墟であるここへのヒールは不要と判断するとくるりと踵を返した。
「どんなに時代が古かろうと、何の制約もなしに人を殺していいはずがないんだから、その辺もう少し考えればわかると思うんだけどな」
戒李は服のほこりを払うと、小さくため息をつく。そして、外にいた信者に声をかけた。
「かっこよさに憧れるなら、ちゃんとした理解を深めないと」
「は……はひ」
「ねぇあなた達、これに懲りたらもう変な趣味を持つのはやめなさいよ」
「ふ、ふぇ!」
スノーの声に、信者はびくびくと視線を彷徨わせる。
「守らないと……」
ずがっしゃん! と音をたて、槍を廃墟の壁に突き刺し、にっこりとスノーは微笑んだ。
「こうなるからね♪」
「は、はいいいぃ……!」
半ば脅しだが、よーくわかったことだろう。くすりとキャプテンは笑った。
「折角華の多い場と相成った、これから皆で夕餉などどうだ?」
平和を取り戻せたことに安堵しつつ、ケルベロスたちは廃墟を後にする。武士道とは、見掛け倒しではなく、胸の中に。
| 作者:狐路ユッカ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年12月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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